ライフ・イズ・カルアミルク

本当のライフハックを教えてやる

排外デモを見てきた

デモを見てきました。沿道で腕組みしながら眺めていたら、物腰の柔らかな青年からこんなビラをもらった。もしよければいっしょに掲げてください、とのこと。

f:id:johnetsu-k:20140527200203j:plain

「帰れ!」というのが奥ゆかしい

 

デモ隊は演説者を乗せた車を中心にして車道を行進、『バカチョン帰れ!バカチョン帰れ!*1』などとスピーカーが壊れてるのか、人間が壊れてるのかわからない、罵詈雑言のリフレインが一番目立ってよく聞こえるという、いかにもこういうデモらしいデモ。この団体が行進する前後左右を警官の列ががっちりとガードしていた。

警官は100人以上いたかな、デモの規模の割にかなり多い印象だった。というのは俺がビラをもらったように「差別反対デモ」が並行して行進しているからで、デモ隊のアジテーションに対して沿道からは差別をやめろという趣旨の声がわあわあ飛ぶ。その勢力間で武力衝突が起きないよう、警官が出動しているらしい。とにかく騒々しいのと警官がうじゃうじゃいるのとで、街の雰囲気も物々しく、「何があったんですか?」と近隣の住民らしき方々から三度、声をかけられた。俺は終始にやにやして突っ立っていたから、こいつは野次馬だなとわかりやすかったのかもしれない。

f:id:johnetsu-k:20140525150151j:plain

警官が多くてテンションが上がる


デモ隊が陸橋を超える箇所はみどころだった。広い車道を歩くデモ勢力に対して、人ふたり分ほどしかない狭い歩道を反差別グループの集団がぎゅうぎゅう詰めで並行して歩き、柵越しにヤジを飛ばしあう。

陸橋を渡り終えたところで、差別勢力はすーっと大通りのほうへ曲がっていくのに対して、せまい歩道側の終点には警官が数人でスクラムを組んで待ち構えており、反差別勢力を足止めする。警官隊が防護体制をつくるまで、時間稼ぎをするのが目的らしい(写真左端に固まっている警官たちがスクラムを組んでいる)

コノヤロウ通せよ!と警官に向かってわあわあわめいている間に、デモ隊はざまあみろとアンチデモ隊を煽りながらすーっと遠くへ消えていく。アンチデモ隊の一人は警察の足止めにしびれを切らし、陸橋の柵を横から飛び越えて、走って強引にスクラムを突破しようとするも、すぐに警官が走り寄ってきて捕獲された。さっきまで威勢よくバカヤロウだの何だの言い合ってたのに、逃げる側も本気で突破しようとは考えていなかったらしく、捕まってしまうとあっさり観念して、警官とにこやかに談笑していた。警察24時でもこんなの見たな。


スクラムが解除されると反差別の会は、デモが向かった方向へと走り出した。警官の何人かも同じペースで併走している。横断歩道をわたる途中で信号が赤に変わり、しかし何人かは、信号を無視して突っ切っていく。
「信号を守れ!」とメガホン越しに大声で威嚇する警官に、道路の向こう側では「うるせえバカ!デブ!」とひょろっとした男が自前のミニメガホンで応戦していた。デブは差別だろ!

当人たちは本気なのだけど、俺はといえば、小学生かよ、と思って爆笑してしまい、いっしょに信号待ちをしていた反差別勢力の方々に寒い目で見られました。申し訳なかった。

信号待ちの時間、「おまわりさんも言いすぎだよ」と反差別組の長老的な存在らしい人が、先ほど叫んだ警官を諌めていた。まあそうなんですけど……といった顔で苦笑する巡査。さっきまで早く通せだの、こんなデモやらせるな、など叫んでいたのに、意外と和やかな雰囲気である。
長老はつづいて近所からやってきたらしい子供2人組に話しかけた。俺たちはガラは悪いけど、心は悪くないんだ、ガラも悪くて心も悪いのはあっちなんだよ、と諭し、サングラスで小太りの中年日焼けおじさんが茶々を入れる。一昔前のドラマとかで見たような光景だ…。こういうのは苦手というか、ウソっぽくて俺はつい笑っちゃうのだけど、あんまりニヤニヤしてると絞め殺されそうなので我慢した。


デモ隊は大通りから路地に入って公園をぐるっとまわり、再び大通りへ戻ってJRの駅構内へ入る。駅のホームで解散らしい(遠足みたいだ)。
警官は駅の中まで長い列を作り、がっちりブロックしていた。デモ勢力がSuicaで改札を抜ける間も、反デモ勢力と煽り合いをしていた。子供がケンカ別れしているみたいで微笑ましい。

数人の警官は改札を抜けてデモのメンバーに同行していた。俺もついていく。エスカレーターでホームへ降りると、下は何やら騒々しい。ホーム側のデモ勢力と、線路の向こう側に集結している反デモ勢力が最後の煽り合いをしていた。

f:id:johnetsu-k:20140525153727j:plain

こんな狭いスペースで応戦しあう


このホーム、お互い顔を合わせないで済む場所はいくらでもある。むしろ見送りできる場所は、本当に狭い、上の写真のピンポイントにしか存在しないのだけど、わざわざその貴重な地点へ集まって双方ヤジを飛ばしあう。日の丸Tシャツを着た男が尻をペしぺし叩いて煽り、反デモ側が「線路から飛び降りろ!」と声のボリュームを上げる。警官は苦笑して日の丸を眺めながら、時おり仲良さげに談笑していた。

ホーム側の集団は概して、お疲れさまですねといった和やかなムードになっていた。この日は少し暑いくらいのいい天気で、このあとビール飲んだらうまいだろうなと思った。

f:id:johnetsu-k:20140525154150j:plain

日の丸と談笑するおまわりさん

その後、電車がやってきてデモ勢力は解散した。電車の中まで警官がついていくらしいのには少し驚いた。どこまでついていくのだろうか。
フェンスの向こう側の反デモ勢力も解散し、デモは終わった。駅に集結していた警官たちは長い列を成して警察署まで帰っていく。こちらも緊張がほぐれ、ああ祭りが終わったな、という感じだった。
日曜の昼下がり、1時間半ほどのデモは特に問題もなく終わった(と思ったら、デモがはじまる前に暴行事件が起きていたらしい。後日聞いてびっくりした)

***

思ってみるとしかし、このデモはかなり楽しい。反デモ側には結構良さそうなカメラを肩に掛けて、写真を撮りながらビラを配っている青年が何人かいたのだけど、目がいきいきしていた。デモというと殺伐としたイメージもあるけれど、なんというか、参加者の笑顔のほうが印象的だった。警官もけっこう笑っている。

「互いの勢力は対立が激しく、武力衝突が起きないように警官が守っている」と書いたけれど、これは正しくないかもしれない。むしろ警官がしっかり安全を確保しているからこそ、あれだけ気持ちよく騒げるのだし、対立の図式も作れるのだろうなと思う。いつ武力衝突があるかわからない状況だったらこんな騒ぎにはならない。事態はもっと緊張するはずで、そういうタイプの緊張感はなかったように思う。
誤解を恐れず言えば、これはいいプロレスだなあと思った。ヒールとレフェリーがいてはじめてプロレスが成立するわけで、そうでなければただの殺し合いになってしまう。なんというか、役割分担がよくできている。

それで警官もこんな人数が本格的に集まってシリアスな顔でガードしてくれるのだから俄然盛り上がるに決まっている。こんな非日常は確かになかなか味わえない。警官は良くも悪くもお祭りを盛り上げる装置として機能している、という印象だった。
たとえばの話、この排外の対象が中国人・韓国人ではなくて、鬼や天狗の末裔を排外の対象にして、鬼は村から出ていけ!みたいなノリだったら、そのまま立派な奇祭になるのではないか。そうなったら本当のプロレスですけどね。

 

f:id:johnetsu-k:20140525152504j:plain

住宅街をメガホン持って練り歩くタイプの奇祭

しかし「安全な位置から互いに言いたいことを叫びあう」という今回のデモは、やってることが子供のケンカと同じに見えて、端から見たらやっぱり笑ってしまう。当人がシリアスならシリアスな分だけおもしろい。これ、どの勢力が悪いという話じゃなくて、この状況そのものが、カフカ的な不条理感があっておもしろいんだと思う。頑張るほど間抜けに見えてしまう悪魔のシステムというか。

まあでも、外から見れば喜劇にしか見えないものが悲劇的な結果を生んでしまったのが昔の連合赤軍だったりしたよな、ということもあるし。実際に暴行事件も起きているわけで、あまりへらへら笑ってるばかりでもない。俺は俺で真剣に考えてるんだ。

あと排外デモを警察は禁止すべきだ、という声もたまに見るけど、どうなんだろう。今回を見る限り、デモは体のいいガス抜きとして利用できるなという印象で、取り締まったほうがかえって激化するのではないか、と思わないでもない。デモがあれば警察だって仕事ができるし。
実際、デモは現状みたいな形で、安全に管理しておくのが賢いやり方じゃないですかね、統治する側からすれば。このデモが社会を変えるとはまったく思わないし、双方ともにいいガス抜きになるような。

あと『反中国・韓国』といった枠組みを外してしまえば、両勢力の少なくない人たちは仲良くできちゃうんじゃないの、という印象も正直あった。巨人ファンとアンチ巨人は似ているみたいな話で、こんなことを言うと怒られそうだけど、なんというか、根本はかなり似ているような…。まああんまり言うのはやめます。

余談だけど、俺はメガホンという機械がどうも苦手だなと思った。どうもメガホンを通した音色は、周囲を威圧するため機械的に増幅されているものとしか思えなくて(だから使っている当人は気持ちいいんだろうけど)、あんなの握ったらもうケンカしかないじゃん、と思う。メガホンを使ったら声が届かなくなる、ということだってあるのにな。

というわけで、メガホンを使わないだけでデモの雰囲気ってかなり変わると思うんだけど、どうでしょうか。「声がデカいほうが勝つ」と考えるのは結構だけれど、それって私は聞き手を信頼してませんと自ら公言している気がして俺は嫌ですね。声がデカいほうが勝つ、がほとんど現実だとしても、そういうもんだって安易に乗っかるのは言葉をあきらめることと同じじゃないのか。

ともかくデモは勉強になるから一度行ってみると面白いと思う。すごくおすすめです(神に誓って皮肉なし)。

*1:これ聞きすぎて、デモが終わる頃には「帰れ!」が俺のなかでおもしろワードと化していた