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ライフ・イズ・カルアミルク

本当のライフハックを教えてやる

観念絵夢「マゾバイブル~~史上最強の思想~」読感

書評

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爆笑した。ここ最近読んだ本の中でいちばんおもしろかった。

本書はB級AV男優、観念絵夢へのインタビューをまとめたもの。観念絵夢の名は文字通り、口を開けば観念的なことばかり話すM男だということに由来する。本書の魅力は、とにかく彼の口から出る支離滅裂な言い回し自体にある。ので、要約にはまったく意味がない。ちょっと長いが本文を引用する。以下はAV監督のカンパニー松尾が観念と対談している場面。Aは編集者。

松尾ー(観念絵夢の原稿を読みながら)『マゾヒズムは人間をより本源へと導き、生命や生物ということだけでなく、神ということに対しても、ずっとその側面をなぞっていく』……なにこれ、全然分かんねえや。

観念ーつまり、神の問題もマゾヒズムですべて解けるんですよ。

松尾ー嘘だろ、おい。

観念ーだって人間はマゾで、創造主が神だから……要するに、手のうちで遊ばれてるだけだから、究極にはマゾなんですよ。

松尾ーじゃあ神はサドなのかよ。

観念ー本当にサディスティックな姿勢というのは、人間には耐えられないんですよ……要するにそういうことなんですよ。だって、先のことはわからないから。

Aーー(笑)

松尾ー(笑)"先のことは分からないから"って、おまえ、さっきから先の話しかしてねえじゃねえかよ。

観念ーだからたとえばさあ……。

松尾ーたとえば何だよ?

観念ー……ここに木の実がなってるとするでしょ?

松尾ー(大笑い)

観念ーこの木の実ですぐにお腹を満たす人もいるけど、すぐには取らずに……イマジネーションで処理できることもあるってことですよ。

Aーーイマジネーションって?

観念ー木の実を食べた気になって、お腹を満たすということですよ。

Aーー観念さんはそっちのタイプなんですか?

観念ーマゾ的な考えで行くと、木の実を見てるだけで飢えをしのぐというか……実際問題は、食べなきゃ始まらないかもしれないけど…つまり、人間の感情は瞬間的なものなんですよ。だから、それはアナルセックスの問題だけじゃなくて、要するにイマジネーションの世界なんですよ。神がいるかどうかって問題に対しては、僕は結論を出さないの。

Aーーさっき結論を出してたじゃないですか。神はサドだって。

観念ーでも、それはグレーゾーンなんですよ。つまり、宗教じゃなくて記憶の問題なんですけど、それを打ち破るためにはまず戦後五十年というワクを突破しなければならないし、要するに一番分かりやすい言い方をすれば、"クローズでオープン"ということなんですよ。

松尾ーこれ以上ないってくらい分かりにくいよ(笑)

観念ー要するにさあ、人の一生なんて一瞬みたいなものだし、そういうことを見越したうえでオープンになれば気が楽になる。マゾという力が人間には備わってるんだからさ。

Aーー…でも、そういう話を誰かにして、共感を得たことってあります?

観念ーそれはこれから……。

…以下やり取りが続く。「要するに」と言ってここまで要できていないのは奇跡じゃないだろうか。すごい。

本書の前半はこのようなどうしようもなく噛み合わないやり取りが延々と続き、「さっき"禁欲主義の延長としてのマゾヒズム"と言いましたけど、アナルがリアリズムなんですよ」「たしかに"言葉よりも映像は早い"けど、"映像よりもSMのほうがもっと早い"んだよ」など天才としか思えない名フレーズを並べつつ、結論はどこにもたどり着かないままインタビューが進んでいく。

驚かされるのが後半の展開。観念絵夢のインタビュアーに社会学者の宮台真司が抜擢されるのだ。これおもしろくなるのかと不安に思いながら読み進めると、すごい。さすがに援交女子高生をはじめとして、必ずしも言葉を使うのが得意じゃない人たちを長年相手にしてきただけのことはありますね。宮台は、観念の一見支離滅裂なフレーズをものの見事に読みといていき、彼の世界観が次第に整理されていく。最初はユニークな狂人くらいに思っていた観念絵夢に対して、宮台のインタビューが終わる頃には「あれ、もしかしてこいつは俺と同じじゃないか…?」とまで思わされてしまった。「もしかして俺も一人のキチガイマゾなのか…?」。このあたりはぜひ、本文を読んでみてください。俺は正直、ちょっと怖くなりました。

本書は間違いなく文学だ。これが文学じゃなかったら何が文学なんだ。まあ文学じゃないかもしれないけど、とにかくめちゃめちゃ笑えるのでみなさんも読んでみてください。

以下余談。本書を読んで思い出したのが猫田道子「うわさのベーコン(http://goo.gl/Me5wg)」。こちらは観念絵夢と同等かそれ以上にぶっとんだ言語感覚を持つ人間が書いた小説で、高橋源一郎が激賞してたと思う。俺は爆笑しながら読んだけど、さすがに数十ページも読んだら読み進めるのがつらくなってきた。理由は単純で、小説にはツッコミがいないから。それに比べ「マゾバイブル」のほうはインタビュアーが的確なツッコミを入れてくれるので読みやすい。うわさのベーコンを楽しめた人はこっちも楽しめるんじゃないでしょうか。まあどちらも何かの間違いで世に出た本という感じだけど。

 あと、装丁がほんとにひどい。売る気がまったく感じられない。深読みをするなら、本は出すけど売れてくれるなというあたりが被逆的というかマゾヒズムということなのかもしれないけど、しかしこんないい加減な本って今出せるのかな。出版バブル感を感じさせる一品。
※ほんとにひどいので画像はリンクで貼ります。