ライフ・イズ・カルアミルク

本当のライフハックを教えてやる

絶望の焼肉ランチ

一人焼肉ランチをしてきました。

結論から言うと、焼き肉が下手すぎて落ち込んだ。

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※写真を撮ったのですが、あまりに不味そうだったので画像をぐるなびからパクってきました

 

全体の流れですが、まずご飯、サラダ、わかめスープと同時に、カルビ、レバー、ぐにゃぐにゃしたモツの三点盛りの皿が目の前に運ばれる。これらを1枚ずつ、目の前の鉄板で焼くのだという。

さっそく熱した鉄板に肉を載せる。その間、写真を撮ったり、サラダを無意味にいじりまわしたり、隣席のカップルの会話に耳を澄ませたりして、一人焼肉の感慨にふけりつつ、漫然と肉を眺め、どれ、そろそろ肉を裏返そうかな、とひょいっとつまんでみると、案の定というかさっそく、肉が鉄板に引っ付いて取れなくなった。しまった。最初は鉄板に油が回ってないからひっつきやすいのだ。

慌てて肉を剥がそうと焼肉用のトングでいじりまわしていると、店員のおねえさんがささっと近寄ってきた。まずいバレたか。焼肉が下手クソなのに一人で焼肉を食べにきたのが間違いだった。本当に申し訳ない。死にたい。うちで練習してきます。

俺が焦っていると店員のおねえさんは「食後なんですが、アイスコーヒー、ホットコーヒー、シャーベット、3つの中から選べます」と話しかけてきた。あっそういうことでしたか。まずい焼き方を責められるかと思った。

で俺はことごとく小市民なのだけど、「あー……じゃあシャーベットで」と店員さんのほうを向いて、肉などお構いなし、平然として答えているふりをしてしまった。そうして店員のおねえさんが俺のテーブルを離れるまで、じっと平静を装う。

結果的にはこれが敗着だった。カルビは鉄板からはがれた頃には、雑巾みたいにボロボロになっていた。急いで対応すべきだったのだ。

だがしかし、レバーのほうはベストとは言えないにしてもまだマシだったし、ぐにゃぐにゃのホルモンはまだ焼けていない。なるほどタイミングが違うのか。人それぞれに個性があるように、肉それぞれも焼け方が違うのだ。いや俺も焼肉ははじめてじゃないわけで、そんなことは熟知しているはずなのだけど、俺一人だけで、単独で目の前のお肉を管理するという特殊なシチュエーションに常識が揺らいでいた。

 

とりあえずお肉それぞれの性格・パターンはわかった。カルビとレバーはかなり早く焼ける。ホルモンは時間がかかる。ということは、このゲームの最適解はこうだ。

カルビ・レバー・ホルモンの3種類の肉を同時に鉄板に載せる。まずカルビとレバーの2種類を焼き上げて、先に食べる。食べている間に、残されたホルモンは鉄板の上でおいしく焼けてくる。すると俺がカルビとレバーを食べ終えると同時に、ホルモンが完全に焼きあがる(時間的余裕はかなりあるだろう)。そうすれば俺は、あのぐにゃぐにゃなホルモンが焼けるのを無為に待つことなく、スムースに食事を継続できる。こういうわけだ。完璧。ライアーゲームの頭のいいやつかよ。2セット目はこの作戦でいこう。

 

実際にやってみた。まずカルビとレバーが焼ける。いい具合だ。彼らを鉄板から引き揚げる。ここまではOK。

引き揚げた肉たちを口に運ぶ。うん、うまい。うまいのだが、何か落ち着かない。予想外だった。そう、鉄板に残されたホルモンが気になって仕方ないのだ。食べてる間にも目前でホルモンは加熱されている。俺はカルビにもレバーにも全力投球できず、まだ焼けるはずもない目の前のホルモンをじっと見つめながらご飯を搔き込んでしまった。何をやっているんだ。

 

こうなると後はボロボロである。最後に残されたホルモンにも俺は全力投球できず、気持ちばかりが焦り、生焼けのまま鉄板から引き揚げてしまった。パワプロでいうところのピッチャーが打たれすぎてピヨっている状態みたいなものである。もう何をしてもダメ。

生焼けのホルモンを全部食うのも気が引けたので、鉄板に戻し、もう一度よく火を通した。こんなこと一人焼肉じゃなければ行儀が悪くてできたものではなく、一人焼肉ならではの醍醐味なのだけど、だからといって「一人焼肉サイコー!」となるわけでもなく、ただただ「自分は焼肉が下手クソ」という事実を痛感するだけだった。

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鉄板にリベンジしていったホルモン

 

なぜ、俺はこんなに焼肉が下手なのか。俺はトングを片手に考えた。ホルモンをトングでひっくり返し(まだ焼けてないな…)と認識する。そのとき俺は、もしかしたら、と思う。

もしかして焼肉がうまい人たちは、「焼肉の絶対音感とでも言うべき才能を持っているのではないか。彼等はちょうどいい焼き加減になったとき、ビシッとベストなタイミングで、「点」で引き揚げる。ところが俺は、刻一刻と変化するホルモンの状態を目の前で追い続けてしまう。必然的にホルモンをその前の状態と、「点」ではなく「線」の中で比べる。自分の内にある絶対的な基準ではなく、移り変わる肉の様子の中にしか判断基準を持てない。「焼肉の相対音感」に頼っているのだ。自分の中に基準がないから、すぐに揺らぐ。

焼肉というものは、鉄板に載せた瞬間から肉はどんどん焼けていく。ベストな状態へ向かう。10秒前の肉より、今の肉のほうがよく焼けている。ということは、間違いなく肉は良い方向へ向かっているのだ。良くなってるのだから、もう食べたほうがいいのではないか。こう判断してしまう。

これだけだと意味がわからないかもしれないけれど、株の売買を考えてもらうとわかりやすい。株の素人は値上がりするとすぐ手放してしまいがちである、辛抱が効かない、というのは有名な話である。俺の焼肉はそれと同じではないか。焦ってすぐつまみ上げてしまう。株も焼肉も、素人がおいそれと手を出してはいけないものだったったのだ……

この焼肉株理論が正しいかどうかはともかく、食事中にこんなことを考えてるやつが肉を焼くのが下手なのは当然だと思う。このときの俺はすでに食事モードではなく、反省会モードに入っていた。

 

ラスト、3セット目の肉が残っていたのだけど、まったく記憶がない。何を食べていたのだろうか。何かに追われるようにして、敗戦処理のゲームのごとく肉を処理してしまった。そもそもなぜ「3種類いっぺんに焼く」というルールを自分に課さなければいけなかったのか、まったく意味がわからない。下手クソなら1種類ずつ焼けばいいじゃないか。「焼肉の最適解」とか訳のわからないことを言ってるからダメなのだ。

 

以前、某氏が話していた「どうぶつの森」の話を思い出す。

かのゲームは、主人公が莫大な借金を背負った状態からはじまる。森のなかでどうぶつたちと楽しく生活しながら、少しずつ借金を返していくのがこのゲームの遊び方なのだけど、彼は「珍しい昆虫をつかまえてショップに売るのが、一番効率がよい」という攻略法を発見した。そしてどうぶつたちとの交流なんて目もくれず、来る日も来る日も昆虫採集。最速でたぬきちに借金を返した頃にはもう飽きてしまったという。

今の俺には、彼の気持ちがよく分かる。焼肉の最適解を探し求めるあまり、目の前の出来事を楽しむことができていないのだ。そんなに焦ることなんて、この小さな世界には何もないというのに…

 

カルビを最後、1枚だけ残していた。俺は一球入魂とばかりに、このカルビを丁寧に焼いていく。これまでの経験からベストな焼き加減を見極め、絶妙なタイミングで鉄板から剥がし、米のうえに着地。食べる。うまい。

…うまいはずなのだけど、俺はなんだか、焼いてる過程で工場研修を思い出してしまった。ミスができないから、目の前の作業(つまらない)に集中しなければならない。俺は自分が食べるだけの肉に対して妙に気負ってしまい、絶対失敗してはいけない、これはうまく焼かなければいけない、というプレッシャーを感じてしまう。これではまるで仕事と同じじゃないか。

俺は自分が焼肉を焼いてるマシーンみたいに思えた。焼肉を焼く仕事をする機械である俺が、どういうわけか肉を食べている……

孤独のグルメのゴローちゃんのように、焼肉を掻き込む自分を人間火力発電所のアナロジーでたとえられたら、どんなにか焼肉が楽しかっただろうと思う。あんなテンションにまでなるには、もっと焼肉のテクニックと人生経験が必要なのだ。

 

俺は負けた。焼肉に負けたんだ。

 

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食後にデザートのシャーベットが来た。これが一番おいしかった。

食事にここまで集中できたのは、本日はじめてである。ほんのり香るゆずのかおりが、焼肉に傷付けられた俺の心をそっと癒してくれる。シャーベットは正解だった。今回正解したのは、このシャーベットの注文だけだったと思う。

 

今回は負けた。だが、俺はあきらめてない。

今度焼肉に来るときは、私が焼いてあげるからあなたは食事に専念して、って俺の代わりに全部焼いてくれる焼肉奉行の彼女をつれてお前のところへ来てやるからな。待ってろよ。

 

俺に25年間彼女がいないのは、焼肉が下手なことと関係があるのかもしれない。