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ライフ・イズ・カルアミルク

本当のライフハックを教えてやる

【お知らせ】文フリに参加します in 2016 秋

トランプ新大統領に「政治的すぎる」という理由で怒られたせいで半年間ブログを更新できませんでした。お久しぶりです。 @同志
さて来たる2016年11月23日(水)勤労感謝の日、正規の勤労に就いていない私も文学フリーマーケットに参戦します。「墓には何一つ言葉は刻まれていなかった」っつう2016年にあるまじき激シブの合同誌に、伊勢物語についての批評1本と『稀晴物語(アイルランドポストモダン民話)』の4編分の邦訳を掲載しております。小職、いや小無職のほかには短歌や批評やよくわからん文章など錚々たる面々のおもしろコンテンツが寄せ鍋状態になる予定です。詳細はこちら。

kifusha.hatenablog.com


小職、いや小無職も文フリ当日は会場に姿をあらわす予定ですので見つけ次第射殺してください、ってクマか俺は。よろしくどうぞ。

それで今回、邦訳した物語のうち一編を掲載します。アイルランドに古くから伝わる歌物語で伊勢物語にインスパイアされたらしいですが説明はいいか、どうぞ!

***

稀晴物語

第2段

 かつては男と呼ぶのにふさわしい男があったものだ。

 その男は壁に囲われていない街に住んでいて、果てはなかった。壁に囲まれている街と囲われていない街はそこそこ高い壁によって隔てられ自由に往来することはできず、文化の全ては壁の内側の街に独占されていた。外側は不毛の地で、人々は石と貝とガラクタを拾って暮らし、地表には内側の街から捨てられるゴミと広大な砂浜が広がるばかりであった。

 

 男はある日、女に出会った。

 男が砂浜で潮干狩りをしていると、どんな貝が取れるの? と、このあたりでは見たことがない女が聞いてきた。男は、自分はここでガラクタを採掘しているのだ。貝を探しているのなら、あっちのガラクタ置き場で拾ってくるのがいい、と答えた。なにそれ、と女は笑って、当たり前のことだろう、と男が言うと、じゃあわたしも当たり前のことを話してあげる、と壁の内側から追い出されてきたという女は、聞いてもいないのに自分が住む街のことを話しはじめた。

 女が言うには、壁の内側の街を統合しているのは街の中心部に祀られている「テンノウ」と呼ばれる感情統合象徴体で、これまで人間やいるかや暖炉などの有機物や無機物が歴代のテンノウを務めてきたのだけれど、現在の「第一八七代テンノウ御希望(オキモチ)」は最新のコンピューターで複雑な演算を繰り返した結果、七色の電球で感情を表出する単純なシステム系統であり、ここ最近は故障のため七色のうち五色の電球が点灯せず光るのは二色のみであるが、特に問題にする人はいない、ということだった。電球は街の中心にそびえる灯台の天頂部に高く掲げられていて壁の外側からも見えるらしく、なるほど男が今までいやにあかるい星だとおもっていたあの光は、内側の街では「テンノウ」と呼ばれているらしい。

 あんな光を崇拝しているのか、と男が問うと、女はそれに答えず、内側の街ではね、たとえばさあ、幼稚園で工作の時間にペットボトルを使って男の子たちがおもいおもいのテンノウをつくるの。巨人だったりライオンだったり飛行機だったりね。わたしたち女の子は、男の子が作り終わるまでべつの教室に移動して、テンノウの立派な歴史を先生に教えてもらってね、それが終わったら男の子たちのテンノウをわあ、すごい、ってひとつずつほめていったの。そういうことが学校でも、大人になっても、おじいさんとおばあさんになっても、ずーっとあるみたいなのよ、わたしのお父さんもずいぶん立派なテンノウを作ってたの、と言った。

 それを聞いて男は、生まれてはじめて「興奮」という感情が自分の内側に備わっていることを知った。女の語ることは、男にとって新鮮なことばかりであった。内側から外側の街に日々廃棄されるペットボトルはテンノウづくりに不要になったゴミであること、内側の街では生涯を通じて男性はテンノウを作り続け、女性におもいを告げるときにそれを手渡すこと、女は語尾に「のよ」をつけたりするということ、すべて男にとっては未知の刺激であったため、はたして知的興奮と性的興奮の分別もつかない男の一物は、生まれてはじめて硬く勃起をしていた。これはどうしたことだろう、と男が不思議そうに言うと、女はやおら顔を赤く染めて、ジープに乗り逃げ出してしまった。男はたいそう悲しんだが、女を追いかけようとはおもわず、そのかわりに壁の近くに設置されているペットボトルの廃棄場へ足を向けた。山積みのペットボトルを前に、男の一物は力強く勃起をしていた。

 

 それからしばらくしたある日、女はふたたび男のもとを訪れた。驚く男に女が言うには、先日、家の屋根になにか固いものが落ちた音がして、外に出て見てみると、羽根のはえたペットボトルであった。それはボロボロで、ボトルの中には外側の世界で見たガラクタみたいな貝殻がいっぱいに詰まっていた。そうこうしている間に、ペットボトルがまた流星のごとく次々と壁の外側からひゅるると飛んできて、近くの家の屋根に落ちてはカラランと音を立てる。あれが飛んできているのはわたしがかつて追い出された方角であり、おそらくあの男が飛ばしているにちがいない、と確信を深め、いてもたってもいられず、ここまでやってきたのだ、と女は小脇に抱えたロケットを愛おしそうに撫でながら話した。

 男は得意気に答えて、そのとおりである、ぼくはぼくなりのテンノウを表現したくおもい、それをあなたの住むところへ飛ばしたのだ。ぼくの立派なテンノウを早くあなたに見せたかったのだ、と言った。女は少しはほめてくれるだろうか、と期待をしながらふっと顔を上げると、女は涙を流しており、体はぼんやりと消えかかっていた。驚きのあまり声も出ない男に言うには、だまっていて申し訳ありません、実は今のこのわたしはただの映像で、最新のVR技術を利用して外側の世界のあなたに向けて姿を投影しています。いまわたしは壁の内側で、と話すやいなやがばりと服を捲り上げ、腹部に残った巨大な三角形の青あざを男に見せ、いるかに虐待されているのです。あのしなやかな尾ひれで何度も、何度も、と涙を浮かべながら言った。まさかいるかが暴力を振るうとはおもわなかった、そんなこと学校で習わなかった、ああ、やはりあんないるかといっしょに暮らすべきではなかったのだ! と女は半ば錯乱しながらまくし立てたが、海に面した外側の街で暮らす男にとって、いるかはレイプをするほど知能が高く残忍な動物である、ということは誰もが知っている事実でしかなかった。壁の内側の人間はそんなことも知らないのだ。

 だが、気の毒なことに男は「レイプ」という言葉が何を指すのかさっぱりわからなかった。「レイプ」と呼ばれる行為におよぶほどいるかは凶暴な生物であると言い伝えで聞いたことはあるが、それが何を意味するのか、生殖能力を喪って久しい外側の住人たちは誰も知らなかった。女は発狂して瞳を黒く濁らせており、まともに質問ができる状況ではなかったため、男はあてずっぽうに、いるかにれいぷをされたことはあるか、と聞くと、女ははっと我にかえりいっそう大粒の涙を流して、こんな体では抱きしめてなんて言えない、キスしてなんて言えない、もっと早くあなたに出会えたらよかった、と嘆く合間にも姿はますます薄くなり、男が駆け寄ろうと立ち上がったそのとき、からん、と女の小脇に抱えられたペットボトルが音を立て地面に落ち、女は水泡のように姿を消していることを知った。

 男は放心し、窓から壁の方角を見ると、あの巨大な電球が真っ黒にてらてらと光を放っていた。男は唇をわなわなと震わせ、あの電球を破壊しなければならない、というおもいにとらわれた。いてもたってもいられず、わずかに残っていたロケット数本の頭部に石をパンパンに詰め、次々とあの黒光りめがけびゅるびゅると射出をはじめたが、石の入った重いロケットではとうていあの高い壁を越えることはできず、ふにゃふにゃと打ち上がっては壁のはるか手前でぽとり、ぽとりと落ち、割れて砕けて中身の石が飛び散り大地を汚すばかりであった。プラスチックと石の残骸を前に、男が叫ぶには

 

「テンノウ」と思いみんなは見ているがあれは大きなチンポじゃないか

 

 叫び声はむなしく壁に反響するばかりで、それを聞いた外側の街の男たちは、みな一様に屹立することのない己の一物をなぐさめながら、おおいに涙を流したということであるなあ。

 

(以下、章段続く)

 

***

・・・という感じのやつほか3編のアイルランド民話を邦訳しています。ポストモダンですね。

なお本作は先の10月に上梓された大塚英志著「感情化する社会」の「感情天皇制論」に強く影響を受けた痕跡が見られますが時系列が謎だ。同作は大塚英志以外のだれがこんなロジックを組み立てられるんだよ、という氏の怪腕ぶりが堪能できる名著で日本国民必読ですのでこんなブログ読んでる場合じゃねえぞ。試し読みできますので是非に ↓↓↓

 ・・・ということでトランプ大統領の許可が降りるその日までこの反体制的極左ブログはふたたび更新を停止しているかもしれないですが元気にやっていきましょう。エイエイオー(感情のゲバ棒で殴打されながら)